近年、BtoB EC市場は急速に成長を遂げています。経済産業省の調査によると、国内BtoB EC市場の規模は465兆円を超え、EC化率も年々増加。この成長の背景には、取引の効率化やデジタルシフトの加速があり、特にコロナ以降、多くの企業が新たな収益機会を求めてBtoB ECへの参入を進めています。
一方で、BtoB ECはBtoC ECとはその性質が大きく異なります。BtoC ECでは、Amazonや楽天市場のような大規模モール型サイトから、ブランド直営のD2Cサイトまで、消費者に多様なショッピング体験を提供していますが、BtoB ECでは顧客ごとの価格設定や承認フローの管理など、独自の機能やプロセスが必要です。こうした特性が、BtoB EC市場を一層魅力的かつ複雑なものにしています。
本記事では、最新の市場データをもとに、BtoB ECとは何か、BtoC ECとの違い、導入のメリット・デメリット、さらに成功のポイントをわかりやすく解説します。
BtoB ECとは
企業間取引のオンライン化を実現するBtoB ECは、単なるショッピングサイトの枠を超え、ビジネスプロセス全体を効率化する手段として注目されています。消費者向けのBtoC ECが利便性や即時性を重視するのに対し、BtoB ECは高額で定期的な取引や、取引先ごとのカスタマイズ対応が求められるのが特徴です。
また、BtoB ECは企業が競争力を維持するための重要なツールとなりつつあります。ここでは、BtoB ECの基本的な定義や特徴について詳しく解説します。
BtoB ECの定義と特徴
BtoB ECとは、企業間取引をオンライン上で効率化するための仕組みです。これにより、受発注業務や在庫確認、見積書の発行など、従来の電話やFAX、対面で行われていた商取引をデジタル化できます。たとえば、部品メーカーが取引先企業にカタログや価格表をオンラインで提供し、発注や納品スケジュールを一元管理することがBtoB ECの典型的な形態です。
BtoB ECの最大の特徴は、以下の3点に集約されます。
- 効率性の向上: 業務フローをデジタル化し、取引のスピードや正確性を高める。例として、自動見積もりやリアルタイムの在庫確認が可能になることで、従来の煩雑な電話やFAX業務が削減される。
- 規模の大きさ: 取引額が高額で、企業ごとの価格設定や長期契約に基づく大量発注が主流。
- 信頼性と柔軟性: 長期的な取引関係を重視し、取引先ごとに異なる条件(価格設定、与信管理など)に柔軟に対応。
これらの特徴は、消費者向けのBtoC ECとは異なる点です。BtoC ECが即時性や感情に基づく購買行動を重視するのに対し、BtoB ECでは合理性と効率性が最優先されます。
BtoB ECとBtoC ECの違い
BtoC ECとBtoB ECは、同じ『電子商取引』でありながら、ターゲットと取引形態が大きく異なります。BtoCでは広範な消費者層をターゲットとするのに対し、BtoBでは特定の企業や業界がターゲットとなり、マーケティングのアプローチも異なります。
- BtoC EC: 消費者を対象とした取引で、Amazonや楽天市場などが代表例。多品種小量の即時購入が中心で、感情に基づく購買が多い。
- BtoB EC: 企業間で商品やサービスを取引する形態。部品調達や備品発注、またはサプライチェーン全体の管理など、少品種大量の購買が中心。価格や納期、承認フローのカスタマイズが求められる。
たとえば、消費者向けECでは「送料無料」や「即日配送」といった利便性が重要視されますが、BtoBでは「取引先ごとに異なる価格設定」や「与信管理」といったビジネス特有の要件が不可欠です。
BtoB ECの市場規模とEC化率
BtoB EC市場は、国内外で急速に成長を遂げています。経済産業省の最新調査(2023年)によれば、国内BtoB EC市場の規模は約465兆円に達し、前年比で10.7%の成長を記録しました。また、EC化率は40.0%に到達し、企業間取引の約4割がオンライン化されています。
出典:経済産業省「令和5年度電子商取引に関する市場調査報告書」
この市場規模の算出方法について、経済産業省では毎年推計対象となる業種の商取引全体の市場規模に対してEC化率を掛けるというシンプルなルールを採用しています。
注目すべきは、BtoB EC市場がBtoC EC市場の約31倍の規模を持つ点です。
市場規模が非常に大きい理由の一つとして、専用回線や通信回線を利用した「EDI(Electronic Data Interchange):電子データ交換」による商取引が含まれている点が挙げられます。EDIは、従来から活用されてきた電子取引手段であり、多くの業種において商取引の重要な基盤を構成しています。このため、BtoB EC市場規模にはEDIを通じた取引が計上されることで、さらにその規模が拡大しています。
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また、近年では、EDIがより柔軟性の高いBtoB ECシステムへ移行する動きも見られます。この変化は、企業のデジタル化を加速させるとともに、取引の効率性と信頼性をさらに向上させる要因となっています。
BtoB ECの種類
BtoB ECには、目的や取引形態に応じたさまざまな種類があります。主に以下の4つの形態が代表的です。それぞれの特徴を把握することで、自社に適した運用方法を選択する参考にしてください。
取引形態 | 説明 | 例 |
受注型BtoB EC | 自社の商品・サービスを販売するためのEC。 | メーカーが販売店向けに商品を提供するオンラインカタログ。 |
発注型BtoB EC | 自社の仕入先への発注や在庫確認を効率化するためのEC。 | 小売店が複数のサプライヤーから商品を仕入れるためのプラットフォーム。 |
自社内展開型BtoB EC | 複数の店舗を展開する企業が、本部と各店舗間の受発注を効率化するためのEC。 | フランチャイズチェーンが各店舗への商品供給を管理する内部システム。 |
完全クローズド型BtoB EC | 特定の企業や業界内でのみ利用可能なEC。一般消費者や未承認の企業はアクセス不可。 | 自動車メーカーのサプライヤー専用部品調達システム。 |
1. 受注型BtoB EC
受注型BtoB ECは、自社の商品やサービスを販売するためにECを活用する形式で、最も一般的なBtoB ECの形態です。この形態では、取引先企業がオンライン上で商品を選択し、発注する仕組みを提供します。そのため「Web受発注システム」と呼ばれることもあります。
- 例: 部品メーカーが取引先企業にカタログや価格情報を提供し、発注を受ける。
2. 発注型BtoB EC
発注型BtoB ECは、自社が仕入先に対して発注を効率化するために活用する形式です。在庫状況や納期確認、出荷状況の管理が容易になるため、特に仕入れが多い企業や仕入れ業務が煩雑な企業でニーズが高まっています。
- 例: 小売業者が、仕入先からの発注プロセスをオンラインで一元管理。
3. 自社内展開型BtoB EC
自社内展開型BtoB ECは、企業が自社内の拠点間取引を効率化するための形式です。本部と店舗間、あるいは各拠点間の商品・部品・備品の受発注をデジタル化します。この形態は、業務効率化だけでなく、全体的な在庫管理の最適化にも寄与します。
- 例: 複数店舗を持つ企業が、本部から各店舗への商品供給をオンラインで管理。
4. 完全クローズド型BtoB EC
完全クローズド型BtoB ECは、特定の企業や業界内でのみ利用可能な形式で、取引相手が限定されています。この形態では、アクセスは事前に認証された企業のみに許可され、一般消費者や未承認の企業は利用できません。
- 例: 自動車メーカーが特定のサプライヤー専用に設計した部品調達システム。
BtoB ECの多様性
BtoB ECは、明確に他の取引形態と線引きできるわけではありません。例えば、以下のようなケースが存在します。
- 一部のBtoB ECでは、企業だけでなく一般消費者も利用できる(例: モノタロウ、ASKUL)。
- 逆に、完全に閉じられたネットワーク内で、企業間のみの取引を対象とするものもある。
こうした多様性があるため、ECシステムの要件や機能は展開する形態により大きく異なります。自社の取引の目的や対象に応じて、必要な機能を慎重に検討することが重要です。
BtoB ECを導入するメリット
BtoB ECの導入は、業務の効率化やビジネス成長を促進する手段として、多くの企業で注目されています。以下では、導入することで得られる主なメリットについて解説します。
1. 業務効率化と負荷の軽減
BtoB ECの最大の利点の一つは、業務プロセスを効率化できる点です。従来の電話、FAX、メールを中心とした取引形態は、煩雑でミスが発生しやすいという課題がありました。しかし、BtoB ECを導入することで、以下のような改善が期待できます。
- 受発注業務の自動化: 注文処理や在庫管理をシステム化することで、作業時間を大幅に短縮。
- 正確性の向上: 人的エラーの削減により、取引の信頼性を向上。
- 問い合わせ対応の削減: 商品情報、在庫、納期をオンラインで共有することで、取引先からの問い合わせ件数を減少。
これにより、業務の負担を軽減すると同時に、従業員がより戦略的な業務に集中できるようになります。
2. 売上・利益の向上
BtoB ECには、売上拡大を支援するさまざまな機能が備わっています。
- データドリブンなマーケティング: 顧客データの分析に基づき、購入履歴に応じた提案やキャンペーンを実施。
- 販促の効率化: ECプラットフォーム上で、割引や限定販売などのプロモーションを簡単に展開。
- 新規顧客獲得: オンラインでの可視性が向上することで、新しい取引先を開拓する機会が増加。
さらに、取引先にとっても利便性が向上するため、リピート購入率の向上や取引金額の増加といった成果が期待できます。
3. 顧客の利便性向上
BtoB ECは、顧客にとっても大きな利点を提供します。
- 24時間対応: 時間や場所を問わず、発注が可能。
- 情報の透明性: 価格、在庫、納期をリアルタイムで確認できる。
- 注文履歴の活用: 過去の発注履歴やお気に入り機能を利用して、迅速に再注文が可能。
これにより、取引先との関係が強化され、顧客満足度の向上に寄与します。
BtoB ECを導入するデメリット
BtoB ECには多くのメリットがありますが、導入にあたっては以下のような課題にも注意が必要です。
1. 高額な初期コスト
業種ごとの商習慣や企業の取引形態に合わせたシステム構築が必要であり、その結果として初期費用が高額になるケースが一般的です。
- 特定の要件への対応: 各取引先のニーズに応じたカスタマイズが不可欠。
- 経営圧迫のリスク: 十分な計画なしで導入すると、短期的にコスト負担が増加。
2. 社内調整の難しさ
従来の業務フローや組織文化を大きく変える必要があるため、社内での合意形成や調整に時間がかかる場合があります。
- 部門間の調整: IT部門、営業部門、経理部門など、複数の部門間での協力が必要。
- 運用定着までの課題: 新しいシステムに慣れるまでの時間とサポートが必要。
3. 取引先への負担
特に既存の取引先にとって、ECへの移行は従来の取引形態からの変化を強いるため、負担が発生する可能性があります。
- 利用方法の教育: 取引先へのシステム操作説明が必要。
- 移行のスムーズ化: 従来の方法を補完的に提供する期間が必要になる場合も。
BtoB ECに欠かせない4つの機能
BtoB ECサイトは、一般的なショッピングサイトと同様に、商品検索、カート、決済といった基本機能を備えています。しかし、企業間取引の特性に対応するために、以下のようなBtoB特有の機能を実装することが欠かせません。これらの機能は、ビジネス効率や顧客満足度の向上に直結する重要な要素です。
1. 自動見積もり機能
BtoB取引では、見積書の発行が頻繁に求められます。従来は営業担当者が手作業で行うことが一般的でしたが、自動見積もり機能を導入することで、以下のメリットが得られます。
- 効率的な見積もり発行: 商品構成や部品リストに基づき、迅速かつ正確に見積書を生成。
- 企業ごとの価格対応: 顧客ごとに異なる価格設定を管理。
- 顧客の稟議プロセスを加速: 顧客側での意思決定が迅速化。
この機能により、顧客対応時間が大幅に短縮され、企業にとっても取引機会のロスを防ぐ効果が期待されます。
2. 与信取引機能
BtoBでは掛け売りが一般的な取引形態であるため、通常のカード決済とは異なる与信取引機能が必要です。
- 売掛管理の自動化: 売掛金管理システムや請求管理システムとの連携により、請求書発行から回収業務までを効率化。
- 取引リスクの管理: 顧客ごとの与信枠を設定し、過剰なリスクを回避。
これにより、企業のキャッシュフローを健全に保ちながら、取引量を拡大することが可能になります。
3. 承認フロー機能
BtoBにおける購買プロセスでは、複数の承認者が関与することが一般的です。承認フロー機能を実装することで、顧客企業の購買プロセスをスムーズに進めるサポートが可能です。
- 承認プロセスの可視化: 購買プロセスの進捗状況を一目で把握。
- 効率的な意思決定支援: 遅延を防ぎ、取引を迅速化。
この機能は、顧客企業の利便性を向上させるだけでなく、自社の売上拡大にも寄与します。
4. 取引先別価格管理機能
BtoBでは、取引先ごとに異なる価格設定が必要な場合が多いため、価格管理の柔軟性が重要です。
- 取引先ごとの価格ルールの適用: 特定の取引先に対して専用の価格を設定。
- 価格設定の透明性: 営業担当者の裁量による価格変更をシステム上で管理。
適切な価格管理は、顧客との信頼関係を維持しながら、利益率を最大化するために重要な要素です。
BtoB ECにおけるこれらの機能は、企業間取引の複雑な要件に対応し、効率性と利便性を提供するための基盤です。導入時には、自社の取引形態や顧客ニーズに応じた機能選定を行うことが成功の鍵となります。
BtoB ECにおける主な決済手段
BtoB ECを導入・運営するうえで、欠かせない要素の一つが決済手段です。BtoB取引では、取引金額の大きさやリピート率の高さに対応した適切な決済方法を用意することが、取引の効率化や顧客満足度の向上に直結します。
以下では、BtoB ECでよく用いられる主な決済手段について、それぞれの特徴とメリット・デメリットを解説します。
決済手段 | 特徴 | メリット | デメリット |
クレジットカード | 手数料が必要だが入金確認が即時可能 | ・入金が迅速でキャッシュフローを改善 ・顧客にとって使いやすい |
・手数料が高額取引では負担になる |
口座振替 |
顧客口座から自動引落を行う仕組み | ・手数料が安価 ・定期的な取引に最適 ・決済プロセスの自動化 |
・初回登録に時間がかかる |
銀行振込 (前払い) |
入金確認後に商品を発送 | ・未払いリスクを回避 ・高額取引に対応しやすい |
・入金確認の手間がかかる ・スピード感に欠ける |
代金引換 (代引き) |
商品受取時に代金を支払う仕組み | ・未払いリスクがほぼゼロ ・新規顧客に安心感を提供 |
・手数料が発生し、顧客の負担になる場合がある |
掛売り (請求書払い) |
商品納品後に請求書を発行し、後日支払いを受ける仕組み | ・顧客に柔軟性を提供 ・信頼関係構築に役立つ ・運営側の手間を削減 |
・未払いリスクが伴う ・与信管理が必要 |
適切な決済手段の選択が成功の鍵
BtoB ECでは、取引先ごとに求められる決済方法が異なるため、柔軟に対応することが重要です。特定の決済方法に限定すると、顧客ニーズを満たせず取引機会を損失するリスクがあります。特に高額取引が主流のBtoBでは、機会損失の影響が大きくなるため、以下のような工夫が求められます。
- 複数の決済手段を用意する: 各取引先のニーズや条件に合わせた多様な選択肢を提供する。
- 自社システムとの連携: 売掛金管理や請求管理を含めた包括的な仕組みを構築することで、運営効率を向上。
こうした取り組みにより、BtoB ECにおける取引の成功確率を高めることができます。
BtoB ECサイトの構築手法
BtoB ECサイトの構築方法には、以下の3つの主要な手法があります。それぞれの特徴を理解し、自社のビジネス要件や取引規模に適した選択をすることが重要です。BtoB特有の取引条件や業界慣習への対応も含めて検討しましょう。
ASP | ECパッケージ | フルスクラッチ | |
初期費用 | ~300万円 | 300万円~5,000万円 | 7,000万円~2億円 |
月額費用 | ~10万円 | 50万円~500万円 | 100万円~800万円 |
特徴 |
クラウドサービス型で低コスト。カスタマイズ性が低く、複雑な取引形態には対応が難しい。 |
基本機能が充実し、カスタマイズの自由度が高い。取引先ごとの価格設定や在庫管理などBtoB特有の要件に柔軟に対応可能。 | 完全なオーダーメイド構築。特殊な業務プロセスや複雑な取引条件に対応可能だが、コストと開発期間が非常に大きい。 |
適しているケース | 単純な受発注業務や定型的な業務フローを持つ小規模事業者。 | 中規模以上の企業で、多様な取引形態や自社基幹システムとの連携を必要とする場合。 | 高度に専門的な業務や、大規模なサプライチェーン全体を管理する独自システムが必要な場合。 |
1. ASP
ASPは、クラウド型サービスを利用することで、短期間でECサイトを構築できます。しかし、BtoB EC特有の複雑な要件には対応が難しい場合があります。たとえば、取引先ごとの価格設定や与信管理、カスタマイズが求められる場合には制約があります。取引形態が比較的単純で、初期コストを抑えたいスタートアップ企業や小規模事業者に適した選択肢です。
2. ECパッケージ
ECパッケージは、BtoB ECの基本機能を網羅しつつ、個別要件への対応も可能です。たとえば、取引先ごとの特別価格設定や与信管理機能、承認フローの実装が可能であり、カタログ型販売や部品調達の自動化などに活用できます。また、基幹システム(ERP、CRMなど)とのシームレスな連携を実現することも容易です。中規模以上の企業が、多様な業務を効率化しつつ、取引先の利便性を向上させたい場合に最適です。
3. フルスクラッチ
フルスクラッチは、完全にゼロからシステムを設計・構築するため、企業の業務要件や業界慣習に100%適合したBtoB ECサイトを構築できます。たとえば、独自の業界規格に準拠した取引プロセスや、サプライチェーン全体を包括的に管理する仕組みを実装できます。しかし、高額なコストと長期間の開発が必要となるため、大規模な投資が可能で、かつ複雑な業務プロセスを持つ企業でのみ採用されることが多いです。
BtoB ECでの選択のポイント
- 取引形態: 価格交渉や特注品の取り扱いが多い場合、ASPよりもECパッケージやフルスクラッチが向いています。
- 規模とコスト: 初期投資を抑えつつ基本機能で十分対応できる場合はASP、大規模で複雑な要件がある場合はフルスクラッチ。
- 成長性: 将来的な機能拡張や取引量の増加を見越すなら、柔軟性に優れたECパッケージが最適です。
BtoB ECサイト構築の課題
BtoB ECには業務効率化や売上向上といった多くのメリットがありますが、その一方で、構築・導入にあたっては以下のような課題が存在します。これらを正しく理解し、適切な対応を行うことが成功への鍵となります。
1. システムの複雑化
BtoB ECは、業界慣習や商習慣、企業ごとの取引条件などに対応するため、システムが複雑になりやすい傾向があります。たとえば、取引先ごとの価格設定や与信管理、承認フローなど、個別要件に応じた機能を実装する必要があります。
一方で、導入コストを抑えたASPでは、こうした複雑な要件に対応できないケースも多く、結果として効率化の範囲が限定的になります。また、システムに合わせて業務を変更する際には、取引先へのメリットを明確に提示しない限り、受け入れられにくい点にも注意が必要です。
2. 高コスト・長期間の開発
ASPを利用した場合は短期間かつ低コストでBtoB ECを立ち上げることが可能ですが、取引規模が大きく、取引先ごとのカスタマイズ対応が必要な企業では、準備や開発に相応のコストと時間が必要になります。
たとえば、業務フローや要件の整理だけでも多くの時間を要し、それに基づくシステム設計・実装にはさらにリソースを割く必要があります。導入後の効果が期待できるとはいえ、この初期投資の大きさが導入の障壁となることがあります。
3. システム化が難しい取引形態
一部の商習慣や取引形態は、EC化が難しい場合があります。たとえば、価格交渉が頻繁に発生する取引や、特殊な条件下での業界独自の取引は、ECシステムでは再現が困難です。また、EC化しても効率化やコスト削減のメリットが得られないケースも存在します。
ただし、こうした課題が「取引先への忖度による従来業務の維持」から来ている場合、本当にその業務が必要かを見直すことが重要です。不要な手間を省くことで、意外な形でEC化の可能性が広がる場合もあります。
近年では、カスタマイズ性とコスト効率に優れたECパッケージがリリースされています。これらのツールを活用することで、システムの複雑化を抑えつつ、企業固有の要件にも対応することが可能です。また、適切なパートナー企業を選定することで、初期段階の課題を軽減し、スムーズな導入を実現できます。
自社の業務フローや取引条件を見直しながら、要件に適したソリューションを比較検討することで、BtoB EC導入の成功率を高めることができます。
BtoB ECを成功させるポイント
BtoB ECを成功させるためには、導入プロセスで注意すべき点がいくつかあります。ここでは、特に重要な2つのポイントを取り上げます。
1. 顧客からの十分な理解と協力を得る
従来の対面ビジネスから突然BtoB ECに移行すると、多くの顧客が困惑し、取引に消極的になる可能性があります。これは、人が変化を嫌い、特に新しいシステムに対して不安を感じることが多いためです。
自社の都合や効率化のメリットを一方的に押し付ける形でBtoB ECを導入すると、顧客離れを引き起こすリスクがあります。そのため、導入の際には以下のステップを踏むことが重要です。
- 利便性や有効性を明確に伝える: BtoB ECが取引をどのように効率化し、メリットをもたらすかを具体的に説明します。
- 導入支援の提供: 顧客がスムーズにECを利用できるよう、十分なサポート体制を整備します。
- 従来の取引形態を併用する: 必要に応じて、従来通りの取引方法も一部残す柔軟な対応が求められます。
こうした取り組みを通じて、顧客からの信頼と協力を得ることが、BtoB EC成功の鍵となります。
2. 高度なセキュリティを確保する
BtoB ECでは、重要な取引データや顧客情報を扱うため、サイバー攻撃のリスクが高まります。特に、情報漏洩や不正アクセスが発生した場合、企業間取引の停止や損害賠償など深刻な影響を受ける可能性があります。
そのため、以下のセキュリティ対策を実行しましょう。
- 堅牢なセキュリティを備えたシステムを導入: 高い信頼性を持つECパッケージやソリューションを活用します。
- 最新のセキュリティ対策を実施: 定期的なセキュリティアップデートやモニタリング体制の整備を怠らないことが重要です。
- セキュリティ教育の推進: 社員や関係者に対するサイバーリスクの認識向上と教育を行います。
安全性を確保することは、顧客との信頼関係を維持し、取引を安定的に継続するための重要な責任です。
BtoB EC導入のメリットを最大限活用
BtoB企業において営業活動は事業の存続を左右する重要なエンジンです。しかし、営業活動以外の受発注業務や管理作業が煩雑化し、リソースが非効率に消費されているケースも少なくありません。
BtoB ECを導入することで、これらの作業をシステムに任せることが可能になります。結果として、営業担当者はより戦略的な業務に集中でき、新たな顧客接点の開拓や深い関係構築に注力できるようになります。このような形で、BtoB ECはビジネスの成長を加速させる有力な手段となります。
まとめ
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