近年では、価値提供手段の多様化・高度化に伴い、商品・サービスの販売経路である販売チャネルの活用方法を重視する傾向が強まっています。
優れた商品・サービスであっても、適切かつスムーズな方法で顧客に提供できなければ、その価値を存分に発揮することはできないため、販売チャネルについて熟考することは非常に重要です。
当記事では、販売チャネルの概要から、販売チャネル戦略の構築ステップ・ポイント、またチャネル戦略のトレンドまでをご紹介します。
販売チャネルについて詳しく知りたい方や、より良い価値提供手段を知りたい方は、ぜひ参考にして下さい。
チャネルとは?
チャネルとは、本来は水路・運河などといった意味の単語です。テレビ・ラジオの普及とともに放送業界でチャンネル(channel)という意味で使用されるようになり、IT業界ではデータ送信・転送の経路という意味で使用されるようになりました。
マーケティング用語としては、「流通経路」「流通媒体」および流通に関連する組織・業者といった意味を持ちます。
優れた商品・サービスでも、チャネルが悪いと販売に結び付かないため、マーケティングにおけるチャネルは、企業活動において非常に重要な要素のひとつであるといわれています。
チャネルの種類
ビジネス・マーケティングにおけるチャネルには、「販売チャネル」「流通チャネル」「コミュニケーションチャネル」という3種類のチャネルがあります。ビジネス戦略にチャネルを活用するためには、それぞれのチャネルの概要・特徴を理解しておくことが重要です。
ここでは、当記事で重点的に解説する販売チャネルをはじめとした各チャネルの概要・特徴についてそれぞれご紹介します。
販売チャネル
販売チャネルとは、顧客に商品・サービスを販売する方法や販売する場所のことです。企業が個人に販売を行うBtoCのビジネスモデルでは、ECサイトや実店舗が販売チャネルとなります。
販売チャネルは、企業が顧客との接点を持つための重要な役割を担っており、商品・サービスの販売だけでなくマーケティング・リサーチ・プロモーションといった活動も販売チャネルに含まれます。
流通チャネル
流通チャネルとは、顧客に商品・サービスが届くまでの経路のことを指すチャネルです。単に配送のことを指すのではなく、中間業者まで含めた全体の流通経路のことを指します。
「どのように、商品・サービスを顧客のもとへ届ければいいのか」という、自社に合ったベストな方法を模索することができれば、顧客の利便性や満足度を向上させることが可能です。
例えば、余計なコストを削って商品・サービスの価格を下げたり、よりスムーズに商品・サービスを送り届けたりといった方法を模索していくこととなります。
顧客体験が重視される現代においては、他のチャネルとともに流通チャネルの重要度も高まってきています。
コミュニケーションチャネル
コミュニケーションチャネルとは、企業と顧客がコミュニケーションを取るためのチャネルです。顧客に商品情報やお得情報を伝えたり、問い合わせや相談を受け付けたりするための手段として活用します。
具体的なコミュニケーションチャネルの例としては、TVCM・Webサイト・Web広告・SNS・チャット・メールなどが挙げられます。
コミュニケーションチャネルを活用することで、企業と消費者の間のコミュニケーションから得たニーズやフィードバックをマーケティングに活かしたり、顧客体験を向上させたりすることができます。
顧客満足度や顧客体験が重要視される近年においては、コミュニケーションチャネルは非常に重要度の高いチャネルといえるでしょう。
販売チャネルの分類
販売チャネルは、チャネルの「長さ」と「幅」によっていくつかの種類に分類されます。ここでは、販売チャネルの長さによる分類と、幅による分類についてそれぞれ解説します。
長さによる分類
チャネルの長さとは、商品・サービスが顧客に届くまでにどのくらいの中間業者が介在するかを示すことをいいます。チャネルの長さには、以下のように0~3までの段階に分けられます。
0段階(直販)
一切の中間業者を通さず、企業が顧客に直接販売を行うケースが0段階です。販売プロセスと全体像を企業がすべて把握できるため、販売計画・販売活動の推進・調整を行いやすいことが特徴です。
1段階(小売業者が介在)
商品・サービスの流通を、小売業者に委任して販売を行うケースが1段階です。直販のみで販売を行うよりも広範囲に展開しやすく、流通コストを削減できることが特徴です。
2段階(卸売業者・小売業者が介在)
商品・サービスの流通経路に、卸売業者と小売業者が介在するケースが2段階です。販売経路を増やしてより広範囲に拡大できることや、販売機会を増やせることが特徴です。商品・サービスを普及させたい場合に適していますが、中間マージンが多く発生することがネックです。
3段階(卸売業者・二次卸売業者・小売業者が介在)
2段階よりも進んで卸売業者・二次卸売業者・小売業者が介在するケースが3段階です。近年では、低コスト化や物流の発達により、流通経路のシンプル化の動きが強く、3段階のチャネルは減ってきています。
一般的にチャネルの長さが長くなるほど多くの中間マージンが発生するため、商品・サービスの価格は高くなる傾向があります。しかし、チャネルが短いほどいいとは一概にいえず、販売効率やマーケットの状況に合わせて柔軟に対応することが重要です。
例えば、広範囲に商品・サービスを展開したい場合は、チャネルを長めに取って販売効率を高めることが推奨されます。
幅による分類
チャネルの幅は、商品・サービスを流通させるために必要な流通業者の数のことをいいます。チャネルの幅には、大きく分けて以下の3つの決定方法があります。
開放的流通施策
流通業者を限定せず広範囲に流通させる方法で、シェア拡大を優先したい場合に適しています。その反面、業者の管理の難しさ・流通コスト高騰・業者間競争の発生といったデメリットがあります。
選択的流通施策
自社が選定した流通業者に絞って、販売を委任する方法です。シェア拡大力・拡散スピード・販売クオリティをある程度自社でコントロールできることが特徴です。現実的には最も実践的な施策といえます。
排他的流通施策
特定の流通業者に販売権を与えて、独占的に販売を委任する方法です。信頼できる業者を選べば、自社の意図や企業イメージを反映した販売を行なうことができます。拡散力の低さや、コスト高騰が起こりやすい点がネックです。
チャネルの幅が広いほど広範囲に流通させやすくなりますが、流通業者の管理が難しくなったりコストが嵩んだりといった問題が顕出するため、拡大したいシェアとリスクのバランスを取ることが重要です。
販売チャネル戦略のステップ
販売チャネルを戦略的に活用する「販売チャネル戦略」は、顧客が求めている商品・サービスを適切な価格と適切な方法で販売を行い、売上とともに顧客満足度を高めることを目的とした戦略です。
ここでは、成果に繋がる効果的な販売チャネル戦略を構築するための具体的なステップと、各ステップで押さえておきたいポイントについてご紹介します。
調査
チャネル戦略の最初のステップは、徹底した調査です。自社が置かれている状況が分からないと、的確な戦略や目指すべきゴールを見いだせないため、徹底的に情報を集めて分析することからスタートします。
チャネル戦略の調査では、以下のような情報の収集を行います。
- 自社の商品・サービスに対する顧客・見込み客のニーズ・ウォンツ
- 自社の商品・サービスに対する顧客・見込み客の興味・関心・満足度・フィードバック
- 自社の商品・サービスの顧客層
- 現在の顧客数・売上・単価・利益率・リピート率
- 現状の販促に対する費用対効果・反応率
顧客の動向から経営に関する各種数値まで、多角的に情報を集めて精査することが、チャネル戦略成功への第一歩となります。
プロモーション・接触
プロモーションとは、自社の商品・サービスを顧客・見込み客に認知してもらうための販売促進活動です。調査結果を基に、どのような広告宣伝手段を活用すれば、効果的に商品・サービスをより多くの人々に知ってもらえるかを検討します。
接触とは、顧客が自社の商品・サービスと接触する経路・接点を設けることです。プロモーションにより商品・サービスを認知した人々にアプローチを行う方法を考えます。いかに自社の顧客となってくれると予想される人々を見極めて掘り起こしていくことがポイントとなります。
交渉・適合
交渉とは、接触した見込み客や顧客に対して実際に販売を行うステップです。交渉の段階で、商品・サービスの価格や提供の方法などが決定されます。
交渉までが完了すれば販売チャネル戦略の構築はほぼ完成したイメージを受けますが、実際には各チャネルや顧客・関連業者の要望を含めた細かい調整を行う必要があります。
このステップは「適合」と呼ばれており、チャネル戦略をスムーズかつ効果的に機能させるためには欠かせないステップです。
適合までが完了すれば販売までのプロセスは完了となりますが、販売チャネル戦略を実現するためには販売以降のステップも必要不可欠となります。
物流
商品・サービスの質やプロモーションがいくら優秀でも、確実かつスムーズに顧客のもとへ届かなければ意味が無いため、適切な物流システムを構築する必要があります。
物流のステップでは、自社にとって最適な物流ルートの確保・構築・運用の方法を決定します。オムニチャネル・マルチチャネルといった複数チャネルを活用する際には、在庫情報の一元化・情報共有を行なうことも必要となります。
外部の物流業者・中間業者が関与する場合は、関係業者とのスムーズな連携・管理を行う方法を決定しておくことも重要です。
金融
物流システム・ネットワークの構築と同時に考えなければならないことが、流通コストの管理です。高度な流通システムを構築したり、介在する外部業者が多くなったりすると、商品・サービスを流通させるコストは高くなります。
流通コストが大きく利益を圧迫すると、商品・サービスの価格を高くせざるを得ないため、物流システムのパフォーマンスを維持しつつ少しでもコストを抑える方法を模索する必要があります。
流通コストは売上・販売価格・利益率に大きく影響するため、各方面のコストと併せて慎重に精査して決定することが重要です。
販売チャネル戦略のポイント
成功確度の高い販売チャネル戦略を立案するためには、上述の基本構築ステップを把握すると同時に、戦略立案のポイントを押さえておくことが重要です。
ここでは、販売チャネル戦略立案の際に必ず押さえておきたい重要なポイントを3つご紹介します。
STPとの整合性を考える
STPとは、マーケティング戦略を考えるうえで非常に重要かつ基本的なフレームワークのことです。STPは、以下の3つの要素から成り立っており、それぞれの頭文字を取ってSTPと呼ばれています。
Segmentation(セグメンテーション)
市場全体を細分化してグループに分類すること
Targeting(ターゲティング)
細分化したグループから、ターゲットとする顧客を見定める
Positioning(ポジショニング)
ターゲティングした市場における自社の立ち位置を明確化する
STP分析が重要である理由は、単一の商品・サービスであらゆる顧客ニーズを満たすことは不可能であるため、市場全体やすべての顧客をターゲットとした商品・サービスは売れないからです。
販売チャネル戦略を考える場合においても、STP分析を無視しては適切な打ち手を見いだすことは難しいでしょう。
効果的に顧客にアプローチして商品を販売するためにも、他社との差別化を図るためにも、STP分析を主軸として戦略を考えることが非常に重要となります。
4Pのバランスを考える
STPと並んで重要とされているフレームワークが、4P(マーケティングミックス)です。4PはPを頭文字とする以下の4つの要素について検討を行います。
製品(Product)
どのような商品・サービスを販売するのか
価格(Price)
価格はいくらに設定するのか
流通(Place)
どこで売るのか
プロモーション(Promotion)
どのように商品・サービスを顧客に知ってもらうのか
4Pの特徴は、すべての要素を企業側がコントロール可能である点です。これら4つの要素を適切に組み合わせてバランスを取ることで、最適なビジネス戦略を導き出す基礎とすることができます。
4Pのすべての要素は販売チャネル戦略にも絡んでくるため、STP分析と併せて必ず検討を行っておきましょう。
顧客価値の最大化を考える
販売チャネル戦略を立案する際に重要となるポイントが、顧客価値の最大化を考えることです。
顧客に商品・サービスを購入してもらってこそ、企業は売上に繋げることができます。しかし、販売チャネル戦略を立案する際に活用するチャネルの組み合わせや流通の方法など、自社の内情や仕組み作りに躍起になってしまい、顧客視点が疎かになっているケースが多く見られます。
商品・サービスはもちろん、プロモーション・提供手段・アフターフォローなどは、顧客に受け入れられなければ意味が無く、顧客側は企業側の業務効率化などには関心はありません。
販売チャネル戦略を立案・構築する際には、自社視点だけでなく必ず顧客視点からも検証を行い、顧客価値を最大化できる方法を考えるようにしましょう。
販売チャネル戦略のトレンドは?
ビジネスのトレンドは時代の流れとともに変化するため、大きな成果を出すためにはトレンドに乗ることも非常に重要な考え方です。販売チャネル戦略についても、IT技術の進化や新しい技術の登場によりトレンドの移り変わりが起こっています。
ここでは、販売チャネル戦略を考える際に押さえておきたいトレンドをご紹介します。
ECの展開
インターネットの発達やスマホの普及によりEC市場は年々着実に成長を続けており、今やどこの企業も無視できない巨大なマーケットを形成しています。オンラインでの販売チャネルとしてECを展開することは、現代のビジネスにおいて必須と言える状況と言えるでしょう。
特に、現在は新型コロナウイルス感染拡大により、人々の消費行動のオンライン化がますます強固なものとなりつつあります。
既存EC事業者の成長戦略だけでなく、新規参入企業の販路拡大や生存戦略としてのEC展開も含め、今後の販売チャネル戦略はECに注力することがトレンドとなるでしょう。
SNSの販売チャネル化
SNSは高い拡散力と投稿・閲覧の手軽さからユーザー数を伸ばしており、近年ではさまざまなビジネスで活用されています。
チャネル戦略においても、販売チャネルとして商品・サービスのプロモーションや販促に活用されたり、コミュニケーションチャネルとして顧客との対話や情報提供に活用されたりしています。
複数のSNSを同時に運用したり、有料のSNS広告を出稿したりすることもおすすめです。
SNSは高い効果性と無料で手軽に導入できることから、ビジネス・企業の規模を問わずチャネルの一つとして活用している事業者が多くいます。
オムニチャネルの実施
近年のチャネル戦略のトレンドを語るうえで欠かせないのが、オムニチャネルです。オムニチャネルとは、複数のチャネルを統合して垣根を無くし、商品・サービスの販売を行うビジネス戦略のことを指します。
実店舗とECサイトを連携させることが基本となりますが、SNS・メルマガ・動画配信・DM・電話・FAXなどあらゆるチャネルが活用。オムニチャネルを実施することで、顧客は時間・場所に依らず自由に買い物ができるため、利便性が高まります。
商品・サービスを販売する企業側としては、売上拡大・販売機会拡大・リピート拡大・顧客囲い込みなど多くのメリットを享受できることが特徴です。
オムニチャネルは一部の大手企業から普及が始まり、今では多くの企業が実施する戦略となっています。売上拡大を目指す企業は戦略の一環として視野に入れておく必要があるでしょう。
まとめ
企業と顧客の接点である販売チャネルは、企業活動の要(かなめ)とも言える非常に重要なチャネルです。近年ではIT技術の進歩・普及により、SNSや動画コンテンツなど新たな販売チャネルも登場しており、従来のチャネルよりも高度化・複雑化している傾向が見られます。
緻密な戦略を立案して各チャネルを上手く活用すれば、売上拡大・新規顧客獲得・リピート率向上・顧客満足度向上などさまざまなメリットが期待できるため、自社に最適なチャネル戦略を追求することが今後ビジネスを成長させる鍵となるでしょう。
消費者がどのようなチャネルで購入しているのかなどをまとめた調査資料もございます。こちらもぜひ参考にしてみて下さい。
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