商売は長い間「対面での商売」が主流でした。しかし、インターネットの発展とスマートフォンの普及が急速に進んだ今、場所や時間にとらわれず、ネット上で売買が完結する時代になっています。ECは、少子高齢化が進む現代社会において、効率的で利便性の高い手段として欠かせない存在になってきています。
本稿では、EC事業とは何なのか?今後はじめて取り組む方に向けてその概要について説明し、ECビジネスに欠かせない基礎知識も紹介していきます。EC事業をはじめたい、EC担当者に任命された「けれどECってそもそも何なんだ?」という疑問を持っている方は、ぜひ参考にしてください。
EC事業とは?
ECは「Electronic Commerce(電子商取引)」の略であり、電子的な手段を通じて行われる商取引のことを指します。このほか「e-コマース」などと表記されますがいずれも同じ意味です。EC事業とは、一般的に企業が顧客に対して商品・サービスをオンライン上のECサイトで販売することを指し、現在ではBtoC(企業対消費者)やBtoB(企業対企業)、CtoC(消費者間取引)など多様な形態で広がっています。
国内におけるECの歴史は1996年に始まり、この頃からパソコンの普及やインターネットの整備によってユーザーが急増し、ショッピングサイトが数多く立ち上がるようになります。時を同じくしてエム・ディー・エム(後の楽天)がモール型のショッピングサイト「楽天市場」を立ち上げ、翌年にはヨドバシカメラ、ノジマ、味の素、小林製薬などがショッピングサイトを開始しています。
ちなみに、立ち上げ当初は13店舗しか登録されていなかった楽天市場も、現在では5.7万店舗を超える超巨大なモール型ショッピングサイトに成長しています(2024年6月時点)。
最近ではデジタルトランスフォーメーション(DX)の影響もあり、EC市場の成長はますます加速しています。企業はDXを通じて効率化や顧客体験の向上を目指しており、EC事業の重要性は今後ますます高まると考えられています。
拡大するEC市場
現在、日本国内のEC市場はどのくらいの規模に達しているのでしょうか?これは経済産業省が毎年発表する「電子商取引に関する市場調査」で明らかになっています。
本調査によれば、2023年のBtoC(消費者向け)EC市場規模は24.8兆円、BtoB(企業間取引)EC市場規模は465.2兆円と大きく拡大しています。前年と比較してもBtoCが9.23%増、BtoBが10.7%増という増加率で、特にBtoB市場の成長が顕著です。
さらに、商取引全体のEC化率も引き続き上昇傾向にあり、BtoCでは9.38%(前年より0.25ポイント増)、BtoBでは40.0%(前年より2.5ポイント増)に達しています。このように、商取引の電子化が進展し、EC市場の拡大は今後も期待されています。
引用:経済産業省 「令和5年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」
EC事業の取引形態
BtoBにおけるEC事業
BtoBにおけるEC事業とは、企業同士がオンラインで取引を行うビジネスモデルで、主に効率化やコスト削減を目的に導入されることが多くなっています。前述のとおり、国内のBtoB市場は年々増加しており、今後も取引の電子化が進むと予測されています。
なお、このBtoB EC市場の規模が特に大きいのは、EDI(電子データ交換)による企業間取引が含まれていることも一因です。EDIは、受発注や請求処理など、反復的な業務の効率化を図るために広く利用されており、大規模な取引のデジタル化が進んでいる分野でもあります。
CtoCのEC事業
CtoC ECとは、個人間取引を意味するECのことです。CtoC ECの代表であるメルカリを想像するとわかりやすいと思いますが、消費者が消費者に対してモノやサービスを販売する形態がCtoC ECです。
2023年の国内CtoC市場規模は約2兆4817億円で前年比5.0%増と拡大が続いています。フリマアプリなどを活用し、不用品の換金や消費者間取引が活発化していることが背景にあります。
DtoCのEC事業
DtoC(Direct to Consumer)ECとは、卸売や小売店などの仲介業者を介さずに、メーカーが直接消費者に商品を販売する形態のECです。DtoC ECの場合、仲介業者を介さないため不要な経費をカットできます。
SNSやEC構築ツールの普及により、DtoC市場も拡大しており、コスト削減やブランドの世界観を消費者へ直接伝えることができるため、多くの企業が導入を進めています。
主要なECサイト構築の種類と特徴
ECにはさまざまな構築タイプがあり、企業のニーズやリソースに応じて選択が可能です。広義でのECは、前述したようにEDIのような商取引も含まれますが、ここでは「EC=ショッピングサイトによる通信販売」として、主要なタイプごとの特徴を紹介します。
1. パッケージタイプ
パッケージタイプは、専用のソフトウェアを利用して構築するECサイトのことです。開発会社が提供する製品を購入し、そのパッケージに基づいてサイトを構築します。ある程度サイトが作りこまれた状態でありながら、独自のカスタマイズも可能で、ブランド独自のデザインや機能を追加しやすいため、ブランディング効果も高くなります。また、独自サイトを立ち上げたいがフルスクラッチの開発は避けたい企業にとって、コストと機能のバランスが取れた選択肢といえます。
ECパッケージについては、こちらのブログでより詳しく解説しています。
ECパッケージとは?機能や比較ポイント、中~大規模EC向け6種を紹介
2. オープンソースタイプ
オープンソースタイプでは、無料で利用できるソフトウェアをベースにECサイトを構築します。ソースコードが公開されており、技術力さえあれば自由にカスタマイズが可能です。コスト面でもメリットがありますが、セキュリティや運用サポートの面でリスクもあるため、導入時には慎重な検討が必要です。特に、セキュリティ面の対策や、カスタマイズに対応できるエンジニアの確保が求められます。
3. クラウドタイプ
クラウドタイプは、パッケージのような専用ソフトを購入するのではなく、インターネット上のサービスを利用してECサイトを運営する方法です。サービス提供企業がすべてのシステムを管理し、メンテナンスや更新が自動で行われるため、比較的手間をかけずに導入できます。利用費用はサブスクリプション方式で月額制が一般的です。しかし、カスタマイズの自由度は低く、デザインや機能が制限されるため、独自性を追求したい場合には不向きです。
4. モールタイプ
モールタイプは、楽天市場やAmazonといった既存のモール型プラットフォーム上に出店する方式です。初期設定が比較的簡単で、多くのユーザーにすぐにアクセスできる利点がありますが、他店との差別化が難しく、ブランディング効果は限定的です。また、モール側のルールや制約に従う必要があるため、サイトの独自性を重視する企業には適していない場合もあります。
モールタイプについてはこちらの記事でも詳しく紹介しています。
モール型ECサイトとは?メリットとデメリット、種類や自社ECとの違いを解説
また、主要なECプラットフォームの種類や構築方法について、ぜひ以下の記事もご覧ください。
ECプラットフォームとは?主要5種類の特徴や選定方法を徹底比較
ECサイト構築を徹底解説!構築方法や費用相場、制作会社の選び方
EC市場拡大の理由と最近の動向
EC市場がここまで拡大した背景には、消費者のニーズがオンラインへと移行したことが挙げられます。消費者は、いつでもどこでも商品やサービスにアクセスできる利便性を求めるようになり、ECはこの期待に応える手段として成長してきました。また、企業側も効率的に全国へ商圏を拡大できるため、多くの業界で導入が進んだのです。
現在のEC市場には以下のようなトレンドが見られます。
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パーソナライズされた顧客体験
AIやデータ解析の技術が進化し、消費者一人ひとりの嗜好や行動に合わせたパーソナライズが可能になっています。個別対応の強化によって、リピーターの増加や顧客満足度の向上が図られています。 -
モバイルコマースの拡大
スマートフォンからの購入が増加しており、モバイル最適化されたECサイトの構築やアプリの利用が進んでいます。特に若年層では、モバイルからのアクセスが中心になっています。 -
オムニチャネル・OMO
ECと実店舗などのチャネルを統合する「オムニチャネル」や、オンラインとオフラインの垣根をなくす「OMO(Online Merges with Offline)」が広がっています。例えば、店舗で商品を確認しオンラインで購入したり、ECで注文した商品を店舗で受け取ったりと、チャネルを跨いで一貫した顧客体験を提供する動きが加速しています。 -
越境ECの需要増
日本国内に留まらず、海外市場にもアクセスできる越境ECの需要が増加しており、これは日本を訪れた外国人が自国でも日本製品を購入したいと願う流れも一因となっています。インバウンド需要が拡大する中、日本の品質やブランドに関心を持つ訪日外国人が越境ECを通じてリピート購入するケースが増えています。これにより、物流の国際対応や多言語サポートなど、越境に特化した施策が求められています。
日本国内の代表的なEC事業者
ここでは、日本国内の主要なEC事業者と、その特徴について紹介します。
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Amazonジャパン
Amazonはマーケットプレイス型のECモールで、企業やブランドが商品を出品するプラットフォームです。「Amazonプライム」という有料会員プラン(月額600円、年間5,900円(税込))では、配送料やお急ぎ便の無料特典、Prime Videoの見放題などが提供され、顧客ロイヤルティを高めています。https://www.amazon.co.jp/ -
楽天市場
国内最大級のテナント型ECモールである楽天市場は、楽天グループの他サービス(楽天トラベル、楽天銀行など)との連携を活用し、ポイント還元率を高める「SPUプログラム(スーパーポイントアッププログラム)」を提供しています。これにより、顧客のリピート率が高く、ブランド力を強化しています。
https://www.rakuten.co.jp/ -
Yahoo!ショッピング
Yahoo!ショッピングは成果報酬型のECモールで、出店にかかる初期費用や月額料金が無料なのが特徴です。代わりに、販売促進に対する原資負担や手数料が発生する仕組みです。また、PayPayとの連携により、PayPayを頻繁に利用する、特に若年層の取り込みが進んでいます。
https://shopping.yahoo.co.jp/ -
ZOZOTOWN
ZOZOTOWNは株式会社ZOZOが運営する、衣料品を中心に扱うECサイトです。採寸や集客、出品、梱包・発送、サポート対応まで一貫して自社で行っているのが大きな強みです。また、肌の色を計測して似合うコスメの色を提案する「ZOZOGLASS」、ミリ単位で足を3D計測し、シューズ購入の参考にできる「ZOZOMAT」など、実店舗さながらの試着体験を提供する技術を導入し、顧客体験の質を向上させています。
https://zozo.jp/ -
ヨドバシ.com
大手家電量販店であるヨドバシカメラが運営するヨドバシ.comは、ECサイトの黎明期である1998年にECサイトを開設し、送料無料やスピード配送サービスで高い顧客満足度を誇っています。店舗で見た商品をネットで購入したり、ネットで購入した商品を店頭で受け取れたりするなど、オンラインとオフラインを統合する「クリック&コレクト」により、店舗とECの統合的な購買体験を提供しています。
https://www.yodobashi.com/ -
BASE
BASEは、初期費用・月額費用が無料のネットショップ作成サービスです。サイトデザインや決済機能などEC運営に必要な機能を備え、2024年6月時点で累計220万のショップが開設されています。個人事業主から自治体まで幅広いユーザー層に利用され、手軽にECサイトを始められる点が人気です。
https://thebase.com/ -
メルカリ
メルカリは株式会社メルカリが運営する国内最大規模のフリマアプリです。洋服や雑貨など、個人が所有するものを自由に販売できるCtoC-ECです。出品や購入は無料で、取引が完了した際にだけ販売価格の10%が手数料として差し引かれる体系になっています。2024年9月には累計出品数が40億品を突破し、ラクマやジモティーといった他のフリマアプリと差別化を図っています。
https://jp.mercari.com/
EC事業の立ち上げ方:始めるための基本ステップ
EC事業を成功させるためには、計画的な準備と確実な運営体制が欠かせません。ここでは、ECサイトを立ち上げる際に必要な基本的な手順について解説します。初心者の方にも分かりやすいように、事業の準備段階から運営開始までの流れを順を追って紹介していきます。
1. 市場調査と商品企画
まず、どのような市場にニーズがあるかを調査し、取り扱う商品の選定や企画を行います。ターゲット層や流行の分析を通じて、差別化した商品ラインナップを考えることが重要です。
ECサイトの立ち上げで重要な「商品選定」!売れる商品を見極めるポイントを解説!
2. 競合分析
競合のECサイトやマーケティング手法を分析することで、自社の強みや弱みを明確にします。競合分析を踏まえて、自社サイトの独自の訴求ポイントを設定します。
3. 事業計画の作成
市場調査と競合分析をもとに、EC事業の具体的な目標や予算計画を立てます。どのくらいの初期投資が必要か、運営コストや収益目標を設定し、事業の方向性を固めます。
4. ECサイトの開設方法の決定
ECサイトの構築にはさまざまな方法があり、パッケージ型、クラウド型、モール型などから自社に合ったタイプを選びます。ブランドイメージや運営コストに合った方法を選択しましょう。
5. マーケティング計画の策定
SNS、SEO、広告などを活用し、顧客層に応じたプロモーション戦略を立てます。特に、ターゲットに適したチャネルでのアプローチが効果的です。
6. フロント業務とバックオフィス業務の準備
運営に必要なフロント業務(サイト運営、顧客対応)とバックオフィス業務(在庫管理、発送対応)の準備も欠かせません。業務フローを整備し、スムーズな運営ができる体制を整えます。
EC事業の運営で重要な「フロント業務」と「バックオフィス業務」
ECサイトを効果的に運営するためには、大きく「フロント業務」と「バックオフィス業務」の2つの分野に分けて考えることが大切です。フロントエンド業務は顧客への販売までのプロセス、バックエンド業務は販売後のサポートや管理を含む業務を指します。それぞれの役割について詳しく見ていきましょう。
フロント業務の内容と役割
フロント業務は、商品の企画や仕入れ、マーケティング、ECサイトの制作など、販売を行うために直接関わる業務です。自社ブランドをどのようにアピールするかを明確にし、使いやすく魅力的なサイトデザインを構築することで、顧客の購買意欲を高めます。
代表的なフロント業務には次のようなものがあります。
- 商品企画: 顧客にとって魅力的な商品を提供するため、トレンドや顧客ニーズを考慮した商品ラインナップを企画します。季節や市場動向を見据えた中長期的な売上計画も欠かせません。
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仕入れ・製造:適正在庫を保つために在庫管理と連携し、無駄な在庫を減らしながら顧客に迅速に商品を提供できる体制を整えます。
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ECサイト制作・更新: ブランドイメージを反映したサイトデザインの構築や、継続的な更新を行い、ユーザーが快適に利用できるようにします。
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プロモーション: SNSやSEO、広告などを活用して認知度を高め、集客につなげます。スマートフォン利用者を意識したSNSマーケティングや、検索エンジン最適化(SEO)も重要です。
バックオフィス業務の内容と役割
バックオフィス業務は、注文を受けた後の商品管理や発送、カスタマーサポートなど、販売後のプロセスに関する業務です。顧客満足度を維持するために、正確な在庫管理や迅速な配送、丁寧なアフターフォローが求められます。
代表的なバックオフィス業務には次のものがあります。
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商品情報登録: 商品のサイズ、写真、説明、価格などを正確に登録し、顧客が安心して購入できる情報を提供します。
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受注処理: 注文を受けた後、確認メール送信や在庫引き当て、出荷指示などをスムーズに進めるための管理が必要です。
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在庫管理: 受注状況に応じた適正在庫の維持や、在庫数の正確なデータ管理を行い、売り逃しや過剰在庫を防ぎます。
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出荷・配送: 梱包や配送手配を迅速かつ丁寧に行い、商品が顧客の手元に無事届くようにします。感謝のメッセージカードやSNS案内の同梱も、顧客に良い印象を与えるポイントです。
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アフターフォロー: 商品到着後のサポートや問い合わせ対応を行い、顧客満足度を向上させます。必要に応じて、購入後の使い方の案内やメールサポートも提供します。
フロント業務とバックオフィス業務はそれぞれ異なる役割を持ちながらも、在庫調整や顧客対応などで密に連携することが欠かせません。各部門が連携し、スムーズに運営することで、顧客に満足度の高いサービスを提供することができます。
具体的な運営の業務についてはこちらのブログでも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
ECサイト運営とは?主要な11の業務内容、必要なスキルを解説
まとめ
現在の市場動向を踏まえつつ、EC事業の基本についてご紹介しました。デジタルシフトの加速で、EC市場は継続して成長しており、今後も新しい技術や消費者ニーズに応じた進化が期待されます。
トレンドの変化は新たな商機を生み出し続けています。企業にとっては、最新の動向を見据えた柔軟な戦略が重要です。変化するトレンドに対応するためにどうすべきなのか?ECの新常識についてまとめた資料もありますので、ぜひ併せてご覧ください。
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