近年オフラインだけ、オンラインだけといった販売戦略から、オフラインもオンラインも横断した販売戦略が一般的になりました。
今ではOMO(Online Merges with Offline)という言い方も浸透してきました。
このようなデジタルとアナログ、オンラインとオフラインを横断した、境目のない販売戦略を考えるとき、売り方や見せ方などのプロモーション領域に目がいきがちですが、成功させるにはそういった考え方に対応した業務管理システムが必要となってきます。
今回は複数の販売チャネルからの注文を一元管理するOMS(Order Management System)についてご紹介します。
OMSはOrder Management Systemの頭文字を取った略称で、注文管理システムのことです。複数のチャネルからの受注から出荷までを一元管理し、受注処理業務を効率化することができます。多くの場合、複数のECサイトからの受注を一元管理するための仕組みとして利用されています。
「注文管理」や「受注管理」というと、一般的な販売管理システムに含まれているものなので、なぜわざわざ別システムが必要なのかわからないという方もいるでしょう。
たしかに注文管理に求められる機能は、大きな機能レベルで言うと何十年も変化はなく、「誰が、何を、いくらで、いくつ注文したか」、「その注文がいまどういう状態か」が管理できていれば十分でした。
オフラインの小売業では同じような販売時点の情報がPOSで管理されてきました。
ではなぜ、従来の販売管理システムやPOSだけでなくOMSが必要となってきたかというと、お客様や事業者を取り巻く環境が変化したためです。
具体的に何が変化したかというと、オンラインでのコミュニケーション、販売が当たり前になったことです。
オンラインの重要性が高まるに連れ、すでに導入済みの旧来型の販売管理システムだけでは対応できない要件が増えてきたため、OMSが注目されているというわけです。
昔ながらのシステムではEコマースといったオンラインの販売チャネルの管理が想定されていませんでした。
実際、販売管理システムで管理されているマスタの中身を見ると、あくまで業務上必要最低限な情報に留まっており、商品の詳しい説明などお客様が購入を検討するのに十分な情報はシステム内で管理されていないことがほとんどです。
元々システム内の情報をオンラインで利用することを想定していないので、これは当然のことです。
情報を持っていないだけでなく、API等でWebサイトに情報を連携する機能も持ち合わせていないので、オンラインの販売チャネルはどうしても別に管理する必要がありました。
熟練の社員が秘伝のExcelで頑張っている、といったケースは今でもよく耳にします。
オンラインの販売チャネルの顧客情報も商品情報も在庫情報も注文情報も人力でなんとか管理しているという状況です。
また、オンラインの販売チャネルと一口にいっても、自社サイトもあれば楽天やAmazonといったモール型ECサイトもあります。
オンラインだけでも多くの販売チャネルを管理する必要があるのですが、まだまだどの販売チャネルもバラバラで管理しているという事業者は少なくありません。
実店舗とこれらのオンラインの販売チャネルの注文を統合管理できる仕組みを持っていないと、
をそれぞれバラバラで管理しなくてはならず、非効率なオペレーションとなってしまいます。
このような状態だと、マーケターがいくらオンライン、オフラインを跨いだシームレスな顧客とのコミュニケーションや購入体験の重要性を説いても、「現場が回らないから無理」となってしまうのです。
このようなシステム上の課題を解決し、複数チャネルの在庫と注文を管理することができるのが、OMSというわけです。
ここまで読んで頂いた方のうち何割かの方は、「これはレガシーな基幹システムを刷新するという話では?」と思われたかもしれません。
実現したいのは、顧客情報・商品情報・在庫情報・注文情報を一元管理し、オンラインでも使えるようにすることと考えたとき、昔ながらの販売管理システムで対応できないのであれば、別のシステムを導入するのではなく、新しい要件に対応した販売管理システムを採用しよう、という考えももちろんあります。
たしかに、オンラインに対応するための選択肢としてレガシーなシステムの入れ替えは一つの答えではありますが、ここでポイントとなるのは、どの企業もゼロベースで理想的なシステムグランドデザインが描けて、実装できるわけではないということです。
要は、基幹システムの改修やリプレイスは大事で、なかなか対応が難しいという企業がほとんどだということです。
基幹システムの入れ替えプロジェクトは3年後を予定している、なんてIT投資計画が決まっていたとしたら、基幹システム側で要件を対応するにはそれを待たなくてはならなくなります。
システムグランドデザインとしては理想的なのですが、どうしても時間がかかってしまうことが、基幹システム刷新で対応する場合の難点と言えます。
一方、既存の販売管理システムや基幹システムとは別にオンラインを想定したOMSを採用することは、基幹システムの刷新と比べて比較的少ない制約の中素早く行うことができます。
もちろん基幹システムとデータ連携は必要となりますが、マイクロサービスアーキテクチャのような発想で、基幹システムとは別サービスとしてOMSにて顧客、商品、在庫、注文を一元管理することで、メンテナンスコストを圧縮したり、容易にスケールすることができるようになります。
特にオンラインでの販売を意識すると、継続的な改修やビジネス拡大に伴うスケーリングが重要となるので、その観点でもOMSを基幹システムと別にすべきと言えるでしょう。
OMSを導入する最大のメリットは業務の効率化です。
ですが、受注管理業務の効率化をOMSで実現すること自体にもメリットがあります。
ここからはどのような業務が効率化できるかというメリットと、それをOMSで実現するメリットについてご紹介します。
OMSを利用しない場合、3つの販売チャネルがあった場合、商品情報の登録や更新は3倍になります。
OMSで商品情報を一元管理してそれぞれのチャネルと連携すれば、OMSのメンテナンスのみで商品情報を管理することができます。
OMSの仕様にもよりますが、OMS側で管理できない商品情報があった場合は、それぞれの販売チャネルごとのメンテナンスは必要となりますが、100%でなくとも作業効率は大幅に改善するでしょう。
作業が効率化された分、魅力的な商品説明を考える時間に使えると売上アップにも寄与できるので理想的です。
複数の販売チャネルに分散している顧客情報をOMSで一元管理すれば、複数のチャネルをまたいだ顧客の購買行動を簡単に分析することができるようになります。
ECビジネスにおいてロイヤル顧客となりうるリピーターの育成は重要な課題です。
顧客情報を統合管理し、分析を行うことで顧客理解の解像度を高め、注力すべき施策を明らかにすることができます。
楽天用の在庫はないけど、Amazon用の在庫なら残っている、というようにバラバラに在庫が管理されていると、売り逃しのリスクが高まります。
またチャネルごとの在庫最適化の手間も発生し、非効率です。
OMSで在庫の一元管理を行えば、特定のチャネルでのみ在庫切れとなって販売機会を逃すといったリスクを抑えることができます。
既存の販売管理システムや基幹システムではなく、OMSで複数の販売チャネルの受注の一元管理を実現するメリットは大きく3点あります。
連携先が様々な機能改修や仕様変更を行うシステムだった場合、基幹システム側で対応しようとするとどうしても柔軟性に欠けてしまいます。
OMSで受注の一元管理を行うメリットは、柔軟かつスピーディに変化に対応することができることと言えるでしょう。
OMSが導入されると、複数の販売チャネルからの受注を一括で管理することができますので、業務は大きく効率化され、在庫の最適化による販売機会の増加も期待できます。
一方で、いくつかのデメリットもありますので、いくつかご紹介します。
新しいシステムの導入ですので、導入にはコストが発生します。
導入にかかる費用は、必要とする範囲に応じて大きく異なります。
Amazonや楽天といった有名なECモールとだけ連携するサービスの導入であれば、独自にカスタマイズする必要性も低いのでそこまでコストをかけずに導入することができるかもしれませんが、自社の販売管理の仕組みに合わせたカスタマイズが必要な場合は追加でコストが発生します。
また、現在利用しているシステムや運用から移行する必要があるため、システムの費用だけでなく人的コストも発生します。
導入する際には、導入の結果期待できる効果と発生するコストを比較し、十分に検討しましょう。
導入することで一括管理が実現できるので、作業効率は大きく改善するのですが、作業の手順は今のやり方からOMSを前提とした手順に変更しなくてはなりません。
運用手順が変更になるため、マニュアルなどを再整備する必要があります。
OMS導入に限らず、作業プロセスの改善の際には必ず発生することではありますが、システムさえ入れればうまくいくというものではありませんので、OMSのメリットを最大化するための運用を再設計するようにしましょう。
OMSは複数のシステムと連携し、システムごとの特性に合わせた形で業務を一括管理する仕組みです。
ですので、連携を必要としない独立したシステムと比較すると仕様が少し複雑です。
ユーザとしては、一括管理されているので単独の画面を見ればよく、複数のシステムを意識する必要がないため楽になりますが、システム担当者としてはOMSがどのように各種システムと連携しているのかを把握しておく必要があります。
実際の詳細な仕様はOMSを提供するベンダーに問い合わせればよいですが、トラブルに対する素早い対応やユーザーからの質問に対してスピーディに対応して業務を円滑に回すことを考えると、社内に詳しい担当者が求められるでしょう。
ここまでご紹介したとおり、OMS導入の目的はオンラインとオフラインを横断した注文管理の仕組みを用意し、業務の観点からビジネスのスケールを下支えすることです。
つまり、オンラインの販売チャネルとOMS以外の業務システムの連携が一番のポイントとなります。
ここではオンラインの販売チャネルとの連携と他の業務システムとの連携に分けて、導入のポイントをご紹介していきたいと思います。
オンラインの販売チャネルは大きく自社ECサイトと外部のモール型ECサイトに分けることができます。
また自社ECサイトも、ECに関するバックオフィス業務まで含まれているシステムと、販売までしか機能が用意されていないシステムに分かれてきます。
それぞれのポイントについてご紹介します。
一般的なECサイト構築サービスやASPでは、注文後のバックオフィス業務を想定した機能が用意されていますが、グローバル展開しているSaaS型のECサイト構築サービスやECサイトを構築することのできるCMSでは、バックオフィスの機能を有していないことがあります。
この場合は例外なくOMSが必要と言っていいでしょう。
このようなケースでは、利用しているECサイト構築サービスあるいはCMSの方で、バックオフィス機能がない分、各種情報を連携するAPIが用意されていることがほとんどです。
ですので、OMSはそのAPIを利用して顧客、商品、在庫、注文情報を連携します。
もしAPIがないとなると別途FTPなどを使った連携などを考えないといけませんが、価格情報のアップデートに時間差があったり、在庫のない商品を売り越してしまう可能性を考えると、OMS側でAPIを用意して、それをECサイトに組み込むといった対応も考える必要があるでしょう。
API連携がバックオフィス機能のない自社ECサイトとOMSを連携させる際のポイントとなります。
一般的なECサイト構築サービスには商品管理や在庫管理などのバックオフィスの機能はあるのですが、用意されている機能が不十分であったり、仕様上オフライン在庫の一元管理ができない場合、OMS側で一元管理する必要が出てきます。
一つ前にご紹介したバックオフィス機能がないケースですとデータの流れは、
ECフロント↔OMS
となるのですが、こちらの場合、
ECフロント↔ECバックオフィス↔OMS
となります。
なので、ECバックオフィス側の機能として連携用のAPIが用意されていれば、そちらを利用してOMSと連携するという形になります
もしAPIの用意がない場合、ECバックオフィス側でAPIをカスタマイズ等で用意する、あるいはOMS側で用意したAPIをECバックオフィス側が呼ぶようにするというどちらかの対応となりますが、どちらもカスタマイズの対応になるので、利用しているECサイト構築サービスがカスタマイズに対応していない場合、バッチかマニュアルでのファイル連携で対応となります。
その場合、どうしても時間差ができてしまうので、どのように運用するかをよく検討する必要があります。
OMS導入の目的が業務効率化という事を考えると、APIによる連携が可能な別のECサイト構築サービスへのリプレイスも検討すべきかもしれません。
楽天やAmazonといったモール型ECサイトでは、各種情報を更新するためのAPIが用意されています。
基本的にはそれらの公開されたAPIを利用し連携する形となります。
一方、OMSとは別にこのようなモール型ECサイトとの連携に特化したモール連携システムを利用しているケースもあります。
特化したモール連携システムは、各モールの仕様変更なども利用料金や保守費用の中で対応してくれるので、とても便利です。
各モール型ECサイトとOMSを直接連携することもできますが、
モール型ECサイト↔モール連携システム↔OMS
といったように特化したシステムを挟むことで、モールの仕様変更に振り回されないで済む構成にすることもできます。
OMS側で顧客、商品、在庫、注文が一元管理できたとしても、これだけでは業務は完結しません。
仕入れの管理、在庫のロケーション管理、検品、棚卸、債権債務管理、会計などはOMS以外の別システムで管理する必要があります。
具体的には基幹システムや会計システム、WMSとの連携などが想定されます。
しかしながら、どのようなシステムが採用されていて、それぞれのシステムでどのような業務を行っているかは事業者によってケースバイケースとなります。
また、OMSを導入するタイミングで、それぞれのシステムの役割が変更になることも考えなくてはなりません。
OMSとの連携のポイントは、それぞれのシステムの担当範囲と連携の仕様を整理することとなります。
いかがでしたでしょうか。
OMSはオンラインを活用した顧客とのコミュニケーション、販売には不可欠なものになってきます。またオンラインを想定していない既存の業務システムの改修よりも早く、柔軟に対応できるというメリットがあります。
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また、ECフロントが不要な場合であっても、バックオフィス機能だけをOMSとしてご提供することもできる、ユニークなサービスとなっております。
オンラインの注文管理に課題をお持ちであれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。
公開日:2022年9月28日 最終更新日:2024年8月20日