近頃、耳にすることが多くなったダイナミックプライシング。ダイナミックプライシングとは、需要と供給の状況に合わせて価格を柔軟に変動させる仕組みです。
スポーツ観戦のチケットやホテル予約などでダイナミックプライシングを導入する企業が増えてきました。小売業界においては、Amazonが数年前よりダイナミックプライシングを導入しています。また、オフラインでも電子棚札の導入によりオンラインと同様にダイナミックプライシングを導入する企業が出てきました。需要が刻々と変化する時、価格を上手く変更することで、固定価格システムに比べ全体収益を増加させることができます。、その仕組みについて基本とメリットを解説します。
ダイナミックプライシングで収益が増加する仕組みを固定価格の時と比較し説明します。
ある商材(製品・サービス)を10という価格で販売している状況を仮定します。
ダイナミックプライシングを導入することで、どのように収益が増加するか、3期に渡るシミュレーションをしましょう!
1期では固定価格「10」の時、商材が(6)売れると仮定します。ダイナミックプライシングでは収益を最大化する価格である「8」に値下げすることで、商材を(8)売ることができ収益が「4」増加します。
2期では需要が落ち着き、固定価格「10」で販売すると(2)しか売れないと仮定します。
この時、ダイナミックプライシングでは収益を最大化する価格「6」に値下げします。その結果、販売数が(6)になり、収益は「16」増加します。このように需要が大きく落ちる時でも、ダイナミックプライシングは収益を増加させることができます。
最後の3期では、需要が上がり、固定価格「10」で販売すると(14)売れると仮定します。
ダイナミックプライシングでは収益を最大化する価格「12」に値上げします。その結果、販売数は(12)に減少しますが、収益は「4」増加します。このように、ダイナミックプライシンは需要が高い時、価格を上げることで需要を落ち着かせつつ、収益を上昇させることができます。
ダイナミックプライシングを導入することで、合計「24」収益を増加させることができましたね。今回の例では販売した数量も、固定価格では「22」個でしたがダイナミックプライシングでは「26」個と「4」増加しました。つまり、より多くの人にこの商材が届いたということです。特に2期では価格が「6」にまで下がったので、これまで高くて購入していなかった新たな顧客を獲得できた可能性があります。このように、世の中に新たな機会を創出できることも、ダイナミックプライシングの利点です。
ダイナミックプライシングはただ単に価格を上げるシステムではなく、需要と供給に合わせ価格を調節するシステムであることを理解いただけたら幸いです。
ダイナミックプライシングを包含する概念である「一物多価」のメリットについて解説します。結論、「一物多価」のメリットは収益の増加です。この収益増加の仕組みについて詳しく説明します。
価格の種類を以下の図のように整理します。
まず「一物一価」とは伝統的に経済学で提唱されている「一物一価の法則(law of indifference)」に倣った価格付けです。一つの物に単一の価格のみが存在することを意味します。
現在、世の中にある多くの物はこの方法で価格付けがされています。そこから派生して誕生したのが「多物一価」と「一物多価」です。
「多物一価」とは複数の物を一つ価格で販売することで、多くの動画を見れるNetflixのサブスクリプションが例としてあげられます。一方「一物多価」とは一つの物を複数の価格で販売することです。
そしてこの「一物一価」に含まれるのが、ダイナミックプライシングです。「一物多価」の価格付けを導入することで、収益増加を実現できます。なぜ、収益が増加するのか?その仕組みを次に説明します。
「一物多価」での収益増加の説明にあたり、「ダイナミックプライシング」に関する記事でよく目にする、下の図について解説します。
この時の収益は、
64 = 8 (価格) × 8 (数量)
です。
今回は、固定価格「8」に対して、一物多価では3種類の価格「4」「8」「12」を用意したと仮定します。
まず、価格「12」の時です。価格「12」での販売量は(4)です。これは、これまで価格「8」で売っていた販売量(8)のうち(4)が、価格「12」で売れたことを意味しています。
固定価格の時、価格「8」での販売量は(8)でした。
しかし、そのうちの(4)は価格「12」ですでに販売されています。
よって販売量は(8)から(4)引いた数である(4)になります。
累計販売量は(8)となり、すでに固定価格の時と同じになりました。
価格「4」での、販売量も(4)です。
この販売量は「一物多価」にしたことで新たに創出されたものです。
これは値下げしたことで、「この値段なら試してみよう!」と思い購入してくれた方がいたということです。
累計販売量は(12)となり固定価格より(4)増えました。
48 = 12 (価格) × 4 (数量)
32 = 8 (価格) × 4 (数量)
16 = 4 (価格) × 4 (数量)
固定価格の時の「64」と比べ、「32」増加しました。
「一物多価」とは一つの物を複数の価格で販売することでした。そして、ダイナミックプライシングも「一物多価」に含まれました。「一物多価」のメリットは収益の増加であり、その仕組みについて詳しく説明しました。
レベニューマネジメントとダイナミックプライシングの違いは2つあります。
1つ目は「重視する予測」、2つ目は「需要予測の活用範囲」です。
今回の記事では、1つ目の違い「重視する予測」の違いについて説明致します。
さらに、この違いによって生まれるサービスの適用領域の違いについても解説します。
最初にダイナミックプライシングが「重視する予測」について説明します。ダイナミックプライシングシステムは「需要変化の予測」を重視したサービスです。
ダイナミックプライシングは、そもそも「需要と供給の状況に合わせて価格を柔軟に変動させる仕組み」です。価格を変動させるために必要なのが「需要変化の予測」です。上図のグレー部の予測、消費者の感じる価値からの「需要そのものの予測」も行ってはいますが、より「需要変化の予測」を重視しています。
「需要変化の予測」を重視するダイナミックプライシングに対して、レベニューマネジメントは「需要そのものの予測」を重視します。
レベニューマネジメントは、そもそも「収益最大化のために、需要予測を通じて適切な販売管理を行うこと」です。販売管理を行うために必要なのが、販売開始前の「需要そのものの予測」です。よって、レベニューマネジメントでは「需要変化の予測」ではなく、その前段階の「需要そのものの予測」を重視し、行っています。
レベニューマネジメントでは「需要そのものの予測」を、ダイナミックプライシングでは「需要変化の予測」を重視していました。この違いからレベニューマネジメントツールは、ダイナミックプライシングシステムに比べ導入できる商材(製品・サービス)の範囲が広いです。
ダイナミックプライシングは、価格の変更が前提となっています。よって、ダイナミックプライシングは販売期間が長く、需要の変化への対応が求められる商材(製品・サービス)が主な対象です。
例として、スポーツの試合観戦チケットがあげられます。ある試合日のチケットは、数ヶ月前から購入できるので、販売期間が長いです。また、直近の順位によって需要は大きく変化します。一方レベニューマネジメントでは、価格の変更という前提はありません。よって、どんな商材(製品・サービス)にも対応が可能です。例えば飲食店や小売店でもレベニューマネジメントは導入可能です。
ダイナミックプライシングは需要予測を「価格管理」のみに使用します。一方、レベニューマネジメントでは需要予測を在庫管理やシフトの作成など、多様な領域の経営判断に活かすことができます。そもそも、ダイナミックプライシングという仕組みは、レベニューマネジメントの一部です。
つまり、ダイナミックプライシングはレベニューマネジメントの活用範囲の一部である、「価格管理」を実現する手段の一つです。
レベニューマネジメントは、価格管理以外に加え、在庫管理やシフトの作成などの多様な領域の経営判断に活かすことが可能です。
EC業界は年々右肩上がりで成長を続けている業界ですが、新型コロナウイルスの影響もあり従来のEC事業者だけではなく、新規参入も多く、熾烈を極めてる業界と言えます。その中における生存戦略の一つが価格戦略であると言えます。ダイナミックプライシングは、価格戦略において価値と価格を最適化する手段の一つです。
弊社では、EC業界のトレンド情報・ECサイト構築方法といった、ECビジネスの基本から応用まで学べるお役立ち資料を提供しています。こちらも併せてぜひご活用下さい。
コンテンツ協力:ダイナミックプラス株式会社