最近耳にすることが増えてきた、ヘッドレスコマース。
今、「ヘッドレスコマース」という考え方が、デジタルを活用した顧客接点の拡大と購入体験の提供において、トレンドの一つになっています。
ヘッドレス・コマースとはどのような仕組みなのか?
どのようなECサイト、ECビジネスに適した考え方なのか?
本記事では「ヘッドレスコマース」について、その特徴やメリット、デメリット、実現方法などを詳しく解説します。
ヘッドレスコマース(Headless-Commerce)とは、ECサイトのフロントとバックエンドを切り離し独立させた形のシステムアーキテクチャで、UXの改善を追求するEC事業者に適したシステム構成です。フロントとバックは異なるシステムとなっており、それぞれAPIでデータを連携します。ヘッドレスコマースを採用することで、変化する顧客ニーズに対してスピーディにより良い顧客体験を提供することができます。
ヘッドレスコマースの「ヘッド」とは、顧客とのタッチポイントになるフロントエンドシステムを意味します。
フロントエンドは実際にお客様が触れる画面のことです。自社ECサイト、ECモール、スマホアプリ、ブログ等がフロントエンドとして挙げられます。
ヘッドレスコマースとは、このヘッドが“レス(無い)”の状態を表しています。
フロントエンドがお客様側が見る画面であるのに対し、バックエンドは運営するEC事業者側が見る画面です。ECシステムはお客様が商品を買うためのシステムと、EC事業者が商品を登録したり注文を処理したりするシステムの2つで構成されています。
フロントエンドはフロントシステム、バックエンドはバックオフィスシステムとも呼ばれます。
一般的な従来のECシステムは、このフロントエンドとバックエンドが同じシステムで構成されていました。
それに対し、ヘッドレスコマースはフロントエンドとバックエンドのシステムが分離して、別の仕組みになっています。
ヘッドレスコマースのイメージ
ここまで話した通り、ヘッドレスコマースはフロントシステムとバックオフィスシステムが分離しているシステム構成です。
従来のECシステムはフロントシステムとバックオフィスシステムが一体型になっていました。
これはモノリシック(1枚岩)と呼ばれており、ヘッドレスコマースと対をなす考え方です。
ヘッドレスコマースとモノリシックコマースの構成の違い
ヘッドレスコマースが注目を浴びる背景にあるのは、消費行動の多様化とカスタマージャーニーの複雑化です。
それらに対応するためヘッドレスコマースに注目が集まっているのですが、ここでは多様化・複雑化の背景についてそれぞれご紹介していきます。
スマホファーストの時代です。スマホ以前はECサイトはPCがメインですが、今や多くの商品カテゴリでスマホがメインになっています。
また、タブレットも広く普及しており、マルチデバイスの利用が当たり前の今、それぞれのデバイスに最適化する必要があります。
商品は自社EC、モール、オウンドメディアなどの様々なサイトに掲載されています。
以前はPC用の自社ECサイトだけ、というブランドも、複数のECモールに出店するほか、コマース機能を利用したSNSへの掲載や、自社のスマホアプリにも商品を掲載するようになってきています。
マルチデバイスだけでなく、マルチなデジタル上のタッチポイントに対応し、それぞれ最適化する必要があります。
デジタル上の購入体験の場は、新しい技術の登場によりさらに広がり続けています。スマートスピーカーやVR・ARなどの仮想技術等が今後普及する時代において、新しい技術を活用したフロントエンドでの購入体験をデザインし、提供し続ける必要があります。
もちろん購入体験の場はデジタルだけではありません。
実店舗などのリアルな場と行き来しながら購入体験は提供されています。
あらゆるチャネルを活用するオムニチャネルな購入体験、オンライン・オフラインの垣根をなくし融合した購入体験を提供するOMOの実現が、小売業の成長のポイントとなると言われています。
オムニチャネルおよびOMOを実現するためには、柔軟で拡張性の高いシステムが必要で、ヘッドレスコマースが注目を集める一因になっています。
ヘッドレスコマースの特徴は、バックオフィスシステムに影響されることなく、フロントシステムを柔軟に変更・拡張することできます。
具体的にどのようなメリットがあるのかをご紹介します。
バックと切り離されているので、自由に変更することができます。
従来の一体型だと、バックオフィスシステム側の影響を気にしながら変更を進めなければならなかったのですが、独立した別のシステムですので、自由に変更することができます。
また利用しているサービスによりますが、一体型だとそもそも自社でフロントを自由に変更することができないものもあります。
その場合、都度システム会社に見積もりを依頼し、作業してもらわないとならないためコストも時間もかかってしまいます。
ヘッドレスコマースの形式を採用する場合、通常フロントの変更は自由にできる構成で進めるため、すばやくフロントのUI変更を行うことができます。
フロントのデザイン変更しやすいということは、様々なデバイスに最適なデザインにしやすいということです。
マルチデバイスに対応しつつ、それぞれのデバイスに合わせた最適なデザイン、UIを実現することができます。
カテゴリごとの特化型サイトやスマホアプリ、メディア型ECサイトなど様々なタッチポイントを容易に増やすことが可能です。
これはバックオフィスシステムが分離されていて、かつ業務が1つのバックオフィスシステムで統合されており、そのバックオフィスシステムと連携すればよいという構成になっているためです。
バックエンドまですべて内製化できているEC事業者はまだ多くありませんが、CVRを上げて売上を拡大するために、フロントエンドの改修は自社でスピーディに行いたいという事業者は少なくありません。
ヘッドレスコマースを採用することでシステムが分離されるため、フロントエンドに特化したエンジニアを採用し、フロントエンドの内製化を進めやすくなります。
ヘッドレスコマースのデメリットは、システム構成が複雑になることです。
システム構成が複雑となることで、具体的にどのような影響があるかについてご紹介します。
一体型と異なり、フロントとバック両方のシステムの構築を進めないとならないため、初期開発のコストが高くなる傾向があります。
柔軟性が上がることで下がるコストもありますが、ヘッドレスコマースはコスト削減というより売上を積極的に拡大する際に効果を発揮すると言えます。
本当にヘッドレスを採用すべきかは、発生するコストを踏まえて判断する必要があります。
独立している分柔軟に対応できることがヘッドレスのメリットですが、両方に影響があるような変更があった際は、それぞれのシステムに改修を入れる必要があるため、その分コストが高くなる場合があります。
またフロントとバックはAPIで連携するため、連携のテストなどの工数も必要となるため、ロジックの修正やまったく新しい機能の開発などが発生した際は、かえって時間とコストがかかる場合もあるということに注意しましょう。
開発会社はもちろん、運営する事業者もこの新しいシステム構成を理解する必要があります。
特性や注意点を理解しなければ、ヘッドレスコマースのメリットを最大限活かすことができません。
ヘッドレスコマースの採用は単なる手段ですので、実現したい目的を明確にしたうえで、ヘッドレスの採用が最適かどうかを判断し、運営段階においても十分にその特性を発揮できるようにするよう必要があります。
ヘッドレスコマースのデメリットでご紹介した通り、ヘッドレスコマースは万能というわけではありません。一体型の従来型ECシステムが向いている場合もあります。
従来型の構成のメリットとデメリットを改めてご紹介します。
フロントシステムとバックオフィスシステムが一体型となっているため、システム構成がシンプルで、ヘッドレスコマースと比較し、開発難易度も高くなく、テストなどの工数も少なくて済むと言えます。
フロントシステムとバックオフィスシステムが一体型となっているため、フロントを増やす場合に、複数のフロントシステムとが連携するバックオフィスシステムのアーキテクチャの拡張やデータ整合性の考慮等が必要となります。
ヘッドレスコマースのメリットは、複数のフロントサイトを構築し、素早くメンテナンスできることです。
UXをとことんまで磨きこみ、売上を伸ばそうというスタイルのビジネスにフィットした形態と言えます。
商品のレコメンド表示というレベルのパーソナライズではなく、サイト単位でのパーソナライズした購入体験が求められるECビジネスに向いています。
例えば、複数ブランド展開するアパレル業はわかりやすい例でしょう。
受注後のバックオフィス業務は共通化する一方、複数のフロントサイトがあり、ブランド毎に見せ方や売り方が異なるべきですし、スマホアプリや店頭での体験など対応しなければならないチャネルは多岐に渡ります。
他にも専門店のような見せ方が顧客の心を掴む場合もマッチします。
それまでサイト内の1カテゴリに過ぎなかったものが、専門サイトという見せ方をすることができます。
例えば、酒類の専門ECサイトでそれまでは数ある商品カテゴリの1つだったウイスキーを、「ウイスキー専門サイト」として切り出せば、ウイスキー愛好家の心を掴むことができます。
もちろん、バックオフィス業務は何も変わりません。
単なるカテゴリページや特集ページの枠組みを超えて、サイト全体でそのアイテムに最適化された体験を提供することが顧客とより深い関係を築くことにつながるビジネスであればマッチすると言っていいでしょう。
つまり、元々専門店のようなビジネスを展開している場合、もちろんスマホアプリの対応などはしなくてはなりませんが、あまりヘッドレス・コマースを採用する必要はないでしょう。
ただし、そのような場合でも「とことんまでフロントエンドを磨きこみたい」という場合は、ヘッドレスコマースが効果を発揮します。
UXの改善と売上へのインパクトを照らし合わせた結果、ヘッドレス化に投資すべきという判断もあり得ます。
ヘッドレスコマースに向いているビジネス、向いていないビジネスについてご紹介しましたが、実際にはどんなブランドがヘッドレスコマースを採用しているのでしょうか。
ここでは、ヘッドレスコマースを採用しているブランドについてご紹介します。
ヘッドレスコマースを採用している最も有名なブランドの1つです。
コアラマットレスは、オーストラリアの寝具メーカーが提供するマットレスブランドです。
いわゆるD2Cのビジネスをグローバルで展開しています。
コアラマットレスでは、フロントエンドとバックエンドのシステムを切り離すことで、開発者はそれぞれの開発に集中できるようになり、ユーザーにとって最適なフロントエンドを実現させています。
ランコムはロレアルの子会社で、フランスの高級化粧品ブランドです。
スマホでのCVに課題を抱えていたランコムのECサイトですが、ヘッドレスコマースを採用し、フロントエンドを各デバイスに最適化し、柔軟に変更できる構成にしたことで、大幅にCVRを改善しています。
ヘッドレスコマースの実現には、フロントとバックを繋ぐ仕組みとしてAPIが必要です。
APIを介することによって、フロントシステムが必要とする情報をバックオフィスシステムから呼び出すことができます。
こういった構成はマイクロサービスアーキテクチャのような考え方に近いものがあります。
マイクロサービスアーキテクチャのようにECビジネスに必要なバックオフィスシステム側の業務にフォーカスすると、商品管理、在庫管理、受注管理、出荷管理となり、これら大枠だけ考えると昔ながらの販売管理システムの領域にも見えてきます。
しかしながら、販売管理システムはECでの販売が想定されていない、あるいはヘッドレスコマースの目的である個別最適された購入体験の提供が想定されていない仕組みであり、なおかつ柔軟なカスタマイズに不向きな構成や環境であるため、昔ながらの販売管理システムをそのままフロントシステムと連携するということは現実的ではありません。
業務単位ではなく、目的別システムの単位でマイクロサービスアーキテクチャを考えたとき、フロントのWebアプリと既存の基幹システムをAPIで連携すれば実現できると思えるのですが、こうした事情があり、結局「ECのバックオフィスサービス」として、フロントの柔軟性と効率的なバックオフィス業務の連携を実現する独立した別システムが求められています。
最近だとヘッドレスコマースと異なる文脈でも、デジタル上の複数チャネルのバックオフィスを統合するOMSが求められ始めています。
OMSについては、こちらの記事でも詳しくご紹介しています。よろしければご覧ください。
従来の販売管理システムがECビジネスにあまり向いていないという文脈だけでなく、海外製のコマース製品がECのバックオフィス機能を持ち合わせていないという理由でも、こうしたEC専門のバックオフィスシステムが求められるケースが増えてきています。
そういった観点ではこのようなバックオフィスシステムを備えていない海外製のコマース製品は「ヘッドのみ」のコマース製品と言えます。
なので、この場合は必然的にヘッドレスコマースを想定したバックオフィスシステムが必要となります。
もちろん海外製コマース製品をカスタマイズする形でバックオフィスシステムを構築することは可能ですが、ないものを開発して作ることになるので往々として開発費用が高額になってしまいます。
もちろんここまでご説明してきた通り、ヘッドレスコマースの構成においてはフロントシステムを改修する場合でも、APIを介することでバックサイドに影響を与えることがなく改修を行うことができるというメリットがあるのですが、ヘッドしかないコマース製品とスクラッチ開発するバックオフィスという構成では、最初に構築する際のコストが高額になりがちです。
現在のところ、ヘッドしかないコマース製品はあっても、ヘッドレスコマースを想定した専門のOMSや販売管理システムはありません。
つまり、ヘッドレスコマースを実現させるためには、スクラッチで開発するか、ヘッドレスコマースにも対応できるECシステムを採用するしかありません。
どちらにも共通して必要になるのが、フロントシステムと連携するためのAPです。
APIを持ち、かつヘッドレス・コマースが必要となるビジネス背景にも適用できるシステム構築がポイントとなり、以下のようなポイントがシステムに求められます。
APIの有無だけであれば、多くのECシステムが何かしらのAPIを持っています。
しかしここでポイントとなるのは、「柔軟な顧客体験を実現するには用意されているAPIを使うだけで十分なのか」という点です。
ヘッドレスコマースのメリットは、「フロントシステムとバックオフィスシステムを分離させることで、フロントシステムで柔軟な顧客体験が提供できること」です。
このメリットを最大限発揮させるには、バックオフィスシステムも柔軟な対応できないとなりません。
何故なら、ECビジネスを支えるビジネスロジックの多くはバックオフィスシステム側にあるためです。
つまりカスタマイズに向いていないシステムであれば、APIがあったとしても変更の利かないその限られたシステムの中でしか対応ができないことになり、ヘッドレスコマースで実現したい世界が実現できないかもしれません。
ビジネスはシンプルで変わることはないのであれば、フロントシステムだけ柔軟でバックオフィスは標準のまま利用するという構成でも問題ありませんが、バックオフィスだけ入れ替えるというのも簡単には行かないため、将来に渡って問題ないかは検討する上での重要なポイントとなります。
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フロントシステムを持ちつつ、別途ECサイトにおけるフロント機能に必要な機能を提供するAPIを標準実装しています。
そのため、新規ECサービスや新しくフロントシステムを追加構築する場合にも、標準で用意されているAPIを活用し、新規サービスの垂直立ち上げをスピーディに実現することができます。
加えて、ヘッドレスコマースは様々なシステムと連携する必要があるため、オープンなプラットホームであることが求められます。
様々なフロントからのデータが集約されるバックエンドシステムとなるため、集約されたデータをマーケティング、販促、経営企画に活用するために取り出すためにそのデータを活用できるデータ基盤である必要があるからです。
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また、ヘッドレスコマースは複数のフロントシステムと連携するため、高い可用性が求められます。
SI Web ShoppingはAWS(Amazon Web Services)に対応しており、AWSが用意したサービスを用いて高いスケーラビリティを提供することができます。
それだけでなく、高いセキュリティを担保している点もスクラッチで作るヘッドレスコマースと大きく異なります。
SI Web ShoppingはIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の定める「安全なWebサイトの作り方」に準拠した作りになっており、さらに異なる2社の第三者機関による脆弱性診断も行ったセキュアなシステムです。
標準でご用意しているフロントシステムもCMSと連携させることができるので、ユーザー側での柔軟にフロントシステムの変更が可能となっているだけでなく、バックオフィスシステムとしても高いカスタマイズ性を誇り、様々なビジネスに柔軟に対応することができるため、ヘッドレスコマースに最適な製品となっています。
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いかがでしたでしょうか?
ヘッドレスコマースのシステム構成は今後採用されることが増えていくでしょう。
ただし、間違えてはならないのは「本当に自社のビジネスを成長させるために必要なのかどうか」です。
流行ってきているからといって、あまり検討せずに採用してしまうとあまりメリットがなかった、普通の構成で良かったと後悔してしまうかもしれません。
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ヘッドレスコマースを検討してみたい、ECビジネスの成長にどのようなシステム構成が必要なのか聞いてみたい、という方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。